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     はじめに読んでください
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 - はじめに読んでください -
いい音に近づくために
いい音って何?
いい音は部屋から
いい音はスピーカーから
視覚効果と心理効果について
その他のことは重要ではありません
   

このページはラブラドールレトリバー犬soopooが書きました。
まだ信じられない?

オーディオは、関連機器の収集や音響技術の研究を楽しむ方向性もあるとぼくは思いますが、小庵サイトは「音楽を楽しむためにオーディオはある」という位置づけです。「オーディオを楽しむのは音楽の感動をいっそう高めるため」ということです。大多数のオーディオファンが同じ考えではないかと思います。あなたはどうですか。

よく調整されたオーディオシステムで音楽を聴けば大きな感動がありますよね。そこには「感動できる音」や「いい音」があります。オーディオファンが関連機器のためにお金を使うのは結局それを期待しているからでしょう。マルチアンプシステムへのチャレンジの最初の動機も同じです。

でも、音がいいかどうかの判断は本当に個人的なもので、状況が変われば同じ人が同じシステムに対して逆の判断をすることもあります。あなたは「いい音とは何か」と考えたことはありますか。どうすれば自分のリスニングルームでいい音を聴けるのでしょう。感動を得るために必要なことは何でしょう。感動はどこから来るのでしょう。

   
本ページではあなたのオーディオシステムで「いい音」を楽しむために一般的に重要だと思われていることの概要をまとめ、あわせて小庵の考え方を書いてみました。オーディオのプロフェッショナルにとっては退屈な内容かもしれませんが。

いい音って何? 
はじめに読んでください - いい音に近づくために 
      オーディオ機器メーカーの考え方

   
小庵は「いい音って何?」とオーディオ機器の開発・販売を行う関係者に直接質問したことはありません。でも、それらの人々が製品案内に書いていることやオーディオショー等で発言していることを要約すれば、「いい音」を実現する製品のために以下の努力目標を持っていることが分かります。

要するに、「音源が持つ情報に何も追加せず、そこから何も減らさず、そのままそれをスピーカーシステムから再生できること」がすぐれたオーディオ機器の条件で、そこから再生される音が最終的に「いい音」として購買者に受け入れられる可能性が高いと考えているということです。主観が入らないよう注意していることが分かりますね。おそらくこれは多数派の一般的な考え方だと思います。ただし、それらの製品から出てくる音はどれも似たものになります。それは「ピュアな音」と呼ばれることがあります。

一方で、一部には会社や開発者の主観を堂々と公言し、アンプで音を色付けすることを恐れず、スピーカーシステムを楽器のように位置づけてエンクロージャの振動を再生音に積極的に付加しようとする人々もいます。他者に真似のできない「唯一の音」こそが本当に「いい音」で、「ストラディバリウスガルネリウスを聞き分ける人に使ってほしい」というわけです。方向性の是非はともかく高い技術力が必要なことは明らかで、それだけに根強い支持があります。

でも、製品ポリシーがどうであっても、オーディオファンが実際にそこに「いい音」を感じるかは別問題です。

      オーディオファンにとっての「いい音」

「いい音」について世界中のオーディオファンが受け入れた統一的な見解はありません。さまざまな意見があって、実際のところ、参加者の数だけ異なった意見があります。「議論なんて時間の無駄だ」と言う人もいます。なぜでしょうか。

人が音を評価するとき、以下のようなプロセスを経ると言われています。

  1. オーディオシステムから出てくる物理現象としての音を人の聴覚器官が感知する。
  2. それはアナログ電気信号に変換されて大脳聴覚野に送られる。
  3. 信号はそこで解析され取捨される。そのとき脳内ネットワークの他の分野(視覚野など)からの情報も評価される。
  4. 同時に、その人のその瞬間の心理状態や生理状態による調整が行われる。
  5. 最終的に「いい音だ」または「何でもない」と結論が出て、感動の強度に応じた興奮物質の分泌指令が出る。
  6. 以上のプロセスが刻々と、それぞれ一瞬で完了し、次々に感想が生まれる。

このプロセスの最初の段階 1.ですでに大きな個人差があります。たとえば若い人は20kHz程度までの音が聞こえると言われますが、小庵のGは高齢のせいか12kHzまでしか聞こえていないようです。ぼくの耳はもともとハイレゾ対応なので今でも40kHzまで聞こえます。

前記リスト 2.と3.は個人の過去の知識や経験が大きく影響します。アンプやスピーカーの外見デザインに大きな興味を持っている人もいます。部屋を暗くし、真空管アンプのフィラメントの光をうっとり眺めながら楽曲を聴く人もいます。(視覚効果については改めて触れます)

4.もすべての人がその瞬間の異なった状態を持っていて、しかも心や体の動きは刻々と変化します。うれしいできごとのあとはどんな音も雑音には聞こえないでしょうし、おなかが痛ければ音楽どころじゃありませんよね。(心理効果については改めて触れます)

なるほど、統一見解なんて出せるはずはありません。あるとすれば「人間の数だけいい音がある」ということになります。

すると、あなたは自分の感覚をもっと大切にしていいことになります。メーカーの宣伝や評論家の製品レビュー、オーディオ仲間の意見など、どれも実は根拠の疑わしいものばかりで、あなたが現在感じている自分のオーディオシステムへの愛着に危機をもたらすものではありません。あなたが毎日の充実した仕事のあとで16cm 2-wayのトールボーイから出てくるモーツァルトに深い平安を感じているなら、あなたは最高のオーディオシステムを持っていると言っていいことになります。そのときあなたは「いい音」を聞いています。

 
Gのコメント
おおsoopoo、いいこと言うじゃないか。無駄な買い物をする理由が減ったということだ。育ての親としてうれしいね。
ただ、「無駄な投資こそ趣味の醍醐味だ」という意見があって、それに反対もできないのだがね。

自分の思い出ですまないが、私は高校生のころ、夜になって友人と故郷の海岸に出て月明かりの下で波の音とともにビートルズなどを聴いたものだが、はるか東京の放送局から送られてくるその雑音やゆらぎのあるメロディーが少年たちの心を深く捉えて離さなかったことを覚えている。そのとき少年はトランジスターラジオを持っていた。いい音がした。私のオーディオはそのとき始まったのかもしれない。

また、私は20代になったばかりのころ、音楽を深く愛好する一人の壮年と出会ったことがある。彼は楽聖ベートーヴェンの交響曲をことに愛し、ある日、フルトヴェングラーの40分ほどの指揮を聞いて感動のあまり彼が涙を浮かべるところを私は目撃した。私は彼を見てふるえた。そのとき我々はラジカセを前にしていた。我々にとって、そのときラジカセはすばらしくいい音だった。

 
soopooのコメント
ふ〜ん……。
50年くらい前の話ですね。
すると、「今のままでOK」ならこの話はもう終わりですか?
ぼくは音響理論や心理学は本当は苦手なんです。

 
Gのコメント
ちょっと待ってくれ。
マルチアンプシステムはどうなるんだ。

小庵はオーディオファン諸氏の現在のシステムはそのまま尊重しているのだ。しかし、「もっといい音を、もっと感動を」と模索する方々がいることも事実だから、そのために多少の道案内をしようとしているのだ。それを忘れてはいけない。soopoo、お前が頼りなんだぞ。うまく行けばビーフジャーキーが待っているぞ。

 
soopooのコメント
ぼくが頼りなんですね。
分かりました。がんばります。
ビーフジャーキーぶんぶん。

いい音は部屋から 
はじめに読んでください - いい音に近づくために 

   
上にも書きましたが、「いい音」かどうかは最終的には個人が判断するほかはないのですが、それでも、過去の多くのオーディオファンが長い間に受け入れてきたいくつかの一般的な知識、つまり常識についてここで触れておかなければなりません。

その第一は、おなたが自分のオーディオシステムを楽しむとき、その再生音にもっとも大きな影響を与えるのはあなたの居住環境や住居であり、またあなたが座っているその部屋だということです。アンプやスピーカーによる音の違いは、家屋や部屋による音への影響に比べれば非常に小さいと思ってください。

お気に入りのオーディオシステムを構築するためには、住環境による制限や部屋による音への影響を十分に検討しましょう。それに合わせてスピーカーなどの準備や機器の設定内容を検討しましょう。

      ライブか、デッドか

家屋はその素材や構造によって音の反響や反射の程度が異なります。あなたのリスニングルームについても同様で、床や天井、壁がどうなっているかにより、またどんな家具がそこにあるかにより、スピーカーから出た音がそのまま消えていくのか、一部の音が反射するのかが決まります。

音が家屋や部屋の中で反射しやすい状態であるとき、それを「ライブである」と言います。一方、反射が少ない状態を「デッドである」と言います。ただし2つの区分に明確な境界はありません。あなたの家が厚いコンクリート作りであれば、あるいは部屋の床や壁が硬く厚い建材でできているなら、その部屋の多くはライブになるでしょう。日本の古くからの建築物のように畳が敷かれ部屋の仕切りが障子やふすまになっている場合、そこはデッドな場所です。

ライブな部屋の場合

適度にライブな部屋が音楽鑑賞にはよいと一般に言われています。スピーカーからの直接音のほかに部屋や家具からの反射音も耳に届くので、音の豊かさや広がりを感じられることになります。「音楽は低音」と思っている人にはライブな部屋が有利です。でも、ライブ過ぎる部屋は困ったことになります。音が干渉し合って特定の周波数帯域が強烈な音のエネルギーを持つようになる一方、他の帯域では不自然に音が小さくなったりします。このような部屋では音量を上げて音楽を楽しむことはできません。

ライブ過ぎる状態の調整には、音を吸収するものを室内に置くことが効果的です。厚手のカーテンやカーペット、布製のソファなどが効果があります。また、スピーカーや家具の配置や設置角度を変えることでも対応できます。「音響反射板(音響パネル)」と呼ばれるついたてを適切な位置に置いて調整を行うこともできます。

ただし、ライブな部屋ではいわゆる「定在波」と呼ばれる異常な音が発生しやすくなります。これは部屋の大きさや構造によってほぼ確実に発生するもので、低音域に特徴的に影響が現れます。ただし、楽曲を大音量で再生しなければそれほど目立たないでしょう。定在波に対応するには、手軽にはリスニングポイントを変えることでその影響を少なくできます。また、グラフィックイコライザーの一部には定在波に対応できるものもあります。

デッドな部屋の場合

トーンコントロール機能をオフにしてポピュラー音楽を再生したとき、低音が貧弱に聞こえればそこはデッドな部屋である可能性があります。代わりに中高音はとてもクリアに聞こえるでしょう。古くからの日本家屋の多くはデッドなはずです。音を反射するものが室内に少ないからです。低音は木材の壁は反射せず通過していきます。

デッドな部屋で中高音をライブにしたければ、スピーカーシステムの背後や周囲に音響反射板(音響パネル)を置いたり、部屋の適切な位置に家具を置くなどすれば効果があるかもしれません。中低音から低音については木造家屋の場合は調整が難しいので、低音用エンクロージャをバスレフタイプにしたり、アンプのトーンコントロール機能やグラフィックイコライザーパラメトリックイコライザーなどで低音域を強調するなどの対策を行うことになります。これらの機器やそれぞれの設定については実践編で取り上げます。

デッドな部屋では定在波の心配をする必要はありません。

      広さ、高さ、形状の影響

「ライブか、デッドか」で書いたことと関連しますが、あなたのオーディオルームの広さや天井の高さ、形状も音に大きな影響を与えます。一般に、広いほど、天井が高いほど、部屋による音への悪影響は減ります。たとえば定在波は生まれにくくなります。ただし、壁や天井からの反響音があなたの耳へ届くまでの時間が長くなるので、エコー音の影響を検討しなければならなくなることもあります。

部屋の形状については、正方形や長方形の部屋より不定形の部屋の方が音を管理しやすいといわれています。現代のコンサートホールは四角形のラッパの一部を切り取った形状ですよね。長方形の部屋ではスピーカーシステムをその長辺側に置くことをすすめます。

      音量を出せるか

もしあなたの部屋で比較的に大きな音量で音楽鑑賞ができるなら、それはとても幸運なことです。小庵のGは「スピーカーは、それが朗々と歌い始める音量がある。そうなると、すべての楽器がそれぞれに主張しているのがよく分かる。自分の耳が生き返ったように感じられて、快感と言うほかはない。音のシャワーを浴びるようなものだ」と言っています。

交響曲などでは多くの楽器が同時に鳴りますが、生演奏であっても一部の楽器の音が他の楽器の強奏のために聞こえにくくなります。オーディオシステムでは生演奏以上にその傾向が強く、たとえば、フルオーケストラの演奏中にトライアングルが鳴ってもなかなか聞き取れませんよね。Gのように高齢になると微細な音への耳の感受性がとても低くなるので、その影響はますます大きくなります。すると、ちょっとボリュームを右へ回すことになります。それでスピーカーが歌い始めます。

「スピーカーが歌い始める音量」はスピーカーシステムの性能やあなたの耳の特徴とも関係があるので、一般化することはできませんが、近隣に迷惑がかからない範囲で、また家族の了解を得て、音量テストを試してみてはどうでしょうか。きっとすばらしい瞬間を体験できるはずです。マルチアンプシステムは比較的に大きな音量で再生する場合に本領を発揮します。

      最善を尽くしたら現状を受け入れましょう

部屋の特徴を知り、それに合わせた工夫をすればあなたのオーディオライフをいっそう楽しめると思いますが、あなたにすぐにできることには限りがありますよね。家や部屋を作り変えることは容易ではありません。作り変えたからといって現状より音がよくなる確かな保証はありません。隣人とは良好な関係を保つべきだし、家族の理解も必要です。すると、「迷惑をかけない範囲ですぐにできることはすべてやった」と言えるとき、あなたは自分のシステムをどう位置づけるべきでしょうか。

ぼくは、万人共通の「いい音」がありえない以上、自分のシステムに気になるところがあっても、それを弱点と見るのではなく、個性だと考えるのが賢明だと思いますね。あなたの感想は今日と明日とで変わるかもしれないのに、毎日そればかりを気にしていたのではオーディオの王道から外れてしまいます。世界のどの音楽ホールもそれぞれ固有の音の響きを持っています。あなたのリスニングルームはその一つなのです。

 
Gのコメント
オーディオに限らないが、自分が持っているものに不安を感じることはあるね。たとえば、オーディオ専門店の試聴室に行けば仰天の音を聴かされる。しかし、それはそこの音なのだ。思わず大枚を払ってアンプやスピーカーを持ち帰っても、自分の狭い部屋では同じ音にはならない。良くなったという確信さえ持てないこともある。貯金を減らしたことを後悔する。

また、残念なことだが、インターネットの情報、機器メーカーのパンフレット、オーディオ批評家の記事、マニアの言葉なども不安の原因になる。たとえば以下のようなものだ。

  • 最低でもxxx万円はかけないとまともな音は出ない。
  • aaa社の製品bbbは駆動力があって一度試してみる価値がある。
  • スピーカーケーブルや信号ケーブルをモンスターや銀線に交換してみては? 電源コードも? 電源タップも?
  • 大出力パワーアンプは小出力でも音がいい。
  • デジタルは音が悪い。雑音が多い。
  • アンプやスピーカーはエージングをすれば音がよくなる。
  • バスレフドンシャリだから不可、密閉タイプのスピーカーがいい。
  • 国産品は音が悪い。スピーカーならJBLの金物ホーンに限る。
  • そのほかオーディオアクセサリーなどで非常に多くの誘惑と懐柔、威嚇。

これらはすべて魑魅魍魎のたわ言だと思ったほうがよい。私も若かったころにはそれらの言葉が気になって仕方がなかったが、今にして思えば、すべてそれらをはねつけてしまったほうがよかった。そのほうが失うものが少なかった。失ったものの第一は時間だ。次には金だ。

Gは極端ですね。でも、不安は不安を、疑念はさらに疑念を生むものです。自分のオーディオシステムに誇りと愛着を持つことが大切だとぼくは思います。あなたの部屋を音楽とオーディオの殿堂だと思いましょう。あなたの愛着が深ければ深いほど、それは家族や友人にも伝わるはずです。みんなを呼んであなたの音楽ホールの音を楽しんでください。「変な音だ」と言われたら、「それがここの音だ」と言って笑い飛ばしていれば、もうそのことは話題になりません。

いい音はスピーカーから 
はじめに読んでください - いい音に近づくために 

   
部屋について最大限の配慮をしたあとはスピーカーについて検討することになります。でもこれについてはここでは要点のみにし、詳細については [何が必要ですか?] セクション以降で改めて触れることにします。以下はマルチアンプシステムを構築する場合のスピーカーシステム(ユニットとエンクロージャ)の選択と運用についての主な留意点です。

  1. 部屋の特性(デッドかライブか)や広さに合わせた選択をすることが大切です。
  2. 常用音量に合わせた選択をすることが大切です。
  3. 好みの楽曲分類に合わせた選択をすることが大切です。
  4. ユニットの正負極性に注意しましょう。
  5. ユニットの能力を超えた使い方をしないようにしましょう。
  6. ユニットとエンクロージャは重いほど音がいいと言われます。
  7. 大きなエンクロージャほど自然な低音が出ます。
  8. エンクロージャは強度の高いものを選びましょう。
  9. ウーファー用エンクロージャの選択では、音量を上げられない環境ではバスレフ型をすすめます。
  10. 予算が厳しい場合は市販スピーカーの改造をすすめます。
  11. 経験も予算も不十分なら国産中型の中古品スピーカーを改造することを強くすすめます。
  12. ユニットはコーン型、ドーム型、ホーン型などの選択はあなたの好みでOKです。
  13. ユニット同士の再生能率が大きく異なっていても問題はありません。
  14. ウーファーのサイズは直径25cm以上に、できれば30cm以上にすることをすすめます。
  15. タイムアラインメント位相について、ある程度の知識を持つことをすすめます。

視覚効果と心理効果について 
はじめに読んでください - いい音に近づくために 

「いい音だ」あるいは「ひどい音だ」と人が感じるとき、それは人の聴覚機能だけの結果ではなく、オーディオ機材の外見や、そのときのその人の心理状態などが複雑に影響し合った結果であることは前に書いた通りです。物理特性のひどい音でも当人にはミューズの調べに聞こえることがあるかもしれません。

「いい音」にかかわる認識はあなたのオーディオライフに大きくかかわる可能性があるとぼくは思いますね。そこで、改めてこの点について考えてみました。

      視覚効果について

小庵ではスピーカーシステムを除くオーディオ機材は目立った場所には置かないことにしています。部屋が広くないという事情もありますが、主な理由はそれらを見て試聴者による音の評価が変わらないようにするためです。

小庵を訪問する人の中には、試聴時にプレーヤーやアンプの機種名やロゴマークを見てから、また、スピーカーユニットやエンクロージャを見てから、その後に音の感想を言う人がいます。それらの人は、どうも機器のメーカーや型式に対する感想を事前に準備しているようです。スピーカー以外がまったく見えないようにすると困惑の表情を浮かべる人もいますね。音を聴きに来たはずなのですが。

でも、モノを見てから音を判断するという態度を批判することはできません。趣味のことなのです。AccuphaseMcIntoshのアンプを見れば、またAutographParagonなどのスピーカーを見れば、人によってはそれだけで気分が高揚するだろうことは理解できます。それらが自分の所有物であれば、なお満足は大きいことでしょう。

   
ですから、あなたのオーディオルームでは積極的にそうしてください。高価なアンプはたいていデザインもすぐれているので、スピーカーシステムの中央に、できるだけ目立つようにそれを置きましょう。真空管アンプは存在感があるので部屋を少し暗くしてそのフィラメントの光を楽しみましょう。アンプから伸びるモンスターケーブルもよく見えるようにしましょう。せっかくの努力と犠牲の象徴は、自分で好きなだけそれを眺め、購入のための巨大な決断を下した特別な人を賞賛するためにもあります。そうすれば、きっとあなたのオーディオの王宮はあなたのために天上の荘厳曲を歌ってくれるでしょう。

一方、普及価格でデザインも平凡な機器を持つ人は視覚効果による支援を受けることはできないのでしょうか? そんなことはないと思いますよ。あなたの考え方、工夫しだいです。システムの周辺におしゃれな花瓶をおいて一輪のバラを飾ってみてください。漆黒の背景でバーンスタインがタクトを振っている大きな写真もいいですね。少しのことで部屋の雰囲気が大きく変わります。おっと、その前に散らかった部屋を片付けないと……。お客さまが来るのです。

   

さあ、そこで自由な空想を楽しみましょう。あなたの大切な人が贈ってくれたバラの花の香りがただよう空間へ、なんとニューヨークフィルハーモニーを引き連れたバーンスタインがやってきて、あなたのために祝典序曲を振ってくれるというのはどうでしょう。苦労の末に構築した愛着のあるあなたのオーディオシステムなら、その前で目を閉じればきっと楽曲にふさわしい物語が展開するはずです。―― 質実であることの、また音楽への愛を持つことの見識を思い出しましょう。見識は財力より価値があります。実際のところ、王宮の音があなたの部屋のものより「いい音」である証拠はどこにもないのです。

      心理効果について

あなたはどんな気持ちのときに自宅のオーディオシステムに向かいますか? うれしいことがあったとき、あなたのシステムから音がどう聞こえるか注意してみたことはありますか? 悲しい事件のあとは? 退屈しているときは?

   

たとえばあなたが市民マラソンで好成績を上げて帰ってきたとき、あなたはどんな楽曲を聴きたくなるでしょう。どれであれみんな名曲に聴こえるかもしれませんね。自宅のオーディオシステムがあなたを迎えて高らかにファンファーレを鳴らすように感じるかもしれません。「おお最高の音だ」とあなたは感動するでしょう。勝者は寛大になるものなのでそれも自然なことです。

一方、惨敗したなら音楽どころではないし、敗因が自分の怠慢であると分かっている場合はどんな音も自分を非難するもののように感じられるかもしれません。日ごろあなたが親しんでいる楽曲を家族がかけても、あなたには苦痛なだけです。「しばらく静かにしてくれ」と。それとも、今こそ悲愴曲を聴きますか?

ちょっと大げさに書きましたが、聴くたびに音がさまざまに変わって感じられるというのはあなたもよく知っていることと思います。同じオーディオシステムから出てくる同じ音が、それを聴く瞬間のあなたの心の状態によって感動や慰めを呼ぶことがある一方、怒りや幻滅を生み出すこともあるというのは前に書いた通りです。

すると、感動的な「いい音」を聞きたいなら一つの努力目標が思い浮かびませんか?

それは、毎日のあなたの生活をできるだけ建設的に、前向きに維持するということです。ぼくは、音楽やオーディオはそのような人々のためにいっそう価値があると思っています。前向きに生きれば失敗もありますが、前向きな人はそこから貴重な教訓を学んで、さらに大きな満足を目指すことができます。音楽は、そもそもそのような傾向の人々が生み出したものです。

 
Gのコメント
soopooが言わないことをちょっと。
個人において前向きで建設的な態度が重要だというのは本当にその通りだが、我々の社会にもそのような方向性が重要ではないかと私は思っている。というのも、我々が生きているこの世界には過去から先送りされてきた未解決の重要課題が多くあって、それらが引き続き未解決のままなら、おそらく我々や我々の子供たちがまもなく生存そのものの質に関わる大きな困難に直面するのではないかと思うからだ。

20世紀末葉から21世紀の20年の国内外の状況を見ていると、進展のない重大な懸案がいくつもあることに気付く。所得格差の問題、人種と移民・難民の問題、テロや紛争の問題、気候変動の問題など、どれも未解決だ。これらのすべてが多かれ少なかれ子供たちの未来にとって暗雲となるだろう。進展のない状況を長く見ていると「世界の指導者はやる気がないのではないか」と思わざるを得ない。2020年1月のことだが、「原子力科学者会報」は「終末時計の残り時間が100秒になった」と発表している。過去最悪だ。

2019年にスウェーデン人のグレタ・トゥンベリという16歳の少女が国連で「大人は金もうけのことばかりで、私たちが生きる時代のことを少しも考えていない」と気候変動問題に対する世界の指導者の動きの鈍さを痛烈に批判したが、今後数十年についての大方の気象学者の予想からすれば、子供たちは実際に「音楽やオーディオどころじゃない」という困難な時代を迎える可能性が高い。オーディオにとって残念な事態であるし、子供たちにとってまったく不幸なことだ。

我々の時代の、ことに高齢のオーディオファンは世界の動きにいっそう敏感であるべきではないかと思う。オーディオファンとは理想主義者の別名だ。「歳を取って死んでしまえばあとはどうでもいい」というような無惨な考え方は音楽やオーディオを愛する者には受け入れられない。そのような想念を日々許している者は、すでに心が破滅している。彼にはもはや音楽の感動は得られない。

   
- 気候変動 -

気候変動問題について特に書いておけば、学者は「状況はすでに一線を越えつつある」と言っている。「今すぐ、しかも全力で対応を始めなければ、20年か30年のうちに事態は決定的になる。回復不可能だ」とも。グレタや学者たちの警告が実際に正しいのかどうか、我々は何もせずに待っているだけでよいのだろうか。グレタは「あなたにできることをしてほしい」と言っているが、私にはどうもグレタが未来からやってきた少女のように思えるときがある。無視できない思いだ。この少女の言葉は歴史に刻まれるのではないかとさえ思う。人類がもし気候変動の危機を乗り越えられるなら、未来の人類はこの少女を「人類のジャンヌ・ダルク」と呼ぶかもしれない、というのは妄想だろうか。

 
soopooのコメント
じつはぼくはグレタのファンなんです。
2019年の「グローバル気候マーチ」にも参加しました。グレタの呼びかけに応えた子供たちの世界同時多発デモです。日本では歌って踊って5000人くらいが青山通りを歩きました。小庵の近くを通りましたよ。

 
Gのコメント
私も見たが、子供たちのマーチングがいつまでも途切れず、これまで見たことのないデモだった。世界で数百万人が参加したそうだ。子供たちがこれほどの規模で大人に反旗を翻したのは歴史上初めてのことではないか。大人はその意味をよく考えるべきだろう。日本の指導的な立場にある人々や一部のニュースメディアは「子供は学校へ行け」、「誰かが子供に入れ知恵をした」などと冷淡な扱いをしたが、学校へ行ったはずのその当人たちの怠慢と不始末のために世界が行き詰まっているという皮肉な現実から彼らは目を背けているし、グレタの問いに正面から答えていない。大人の一人として情けなく残念なありさまだ。わが国における第一番目の試練は大人の島国根性かもしれない。

グレタいわく、「(政治家は) 30年ものあいだ気候変動問題への行動を起こさず、ただベラベラとお題目を唱えるだけで終わっている。今も私たちはものすごいスピードで間違った方向に進んでいる。私たちに必要なのはお題目ではなく気候のための正義だ」

もちろんこの言葉は私にも向けられている。不謹慎だが「痛快」という言葉を思い出した。

学者の中には温暖化は人間の営為が原因ではないという人もるし、それどころか温暖化ではなく寒冷化が近づいているからどんどん温暖化ガスを排出するべきだという人までいる。まあ、地球は球体ではなく平面だという学者もいるくらいだから、どんな主張があってもこちらは驚かないが、それらの一部にグレタたちの活動を罵倒する者がいることは大きな問題だ。学者にも良心の片鱗は必要だと思うが、それがどこにあるのかまったく疑問に思わざるを得ない。罵倒とは何かと言うことを科学から離れて考えてみたことがないのだろう。貧しい頭脳だ。

考えてもみよう。人生が始まったばかりの16歳を50歳が罵倒するなら、それは50歳の狂気だ。16歳の少女が実名を明かして批判や中傷を正面から受け止めようとしているのに、50歳が匿名で悪口雑言を言い散らしているなら、それは50歳の完全な敗北だ。彼は人の振る舞いについてグレタに教えることは何もない。

もっとも、世界の指導的な立場にある多くの人々はこの少女を近代史上の重要人物と位置付けつつあるようだ。世界の大人たちにただ一人で立ち向かい、中傷をただ一人で受け止めたのだから、それだけでも十分に画期的だ。歴史はこの少女を忘れないだろう。

グレタは必ずしも温暖化対策や寒冷化対策の話をしたいわけではないだろう。子供たちの未来のために、もっと大人に真剣になってほしいと言っているだけだ。あまりに期待外れだからだ。金のことにしか関心がないように見えるからだ。今や現実が目前に差し迫っているから「大人にも事情がある」という言葉は子供たちにはもう効果がない。グレタはそうとは言っていないが、大人が音楽やオーディオに大きな楽しみを感じているのなら、子供たちの時代にもそうなるようにしてほしいと言っているのだ。すばらしく当然のことだ。小庵はグレタ・トゥンベリの勇気ある言葉を支持する。

 
soopooのコメント
G、ちょっと脱線したかも!!
読者のみなさん、長くなってすみませんね。
「オーディオにおける心理効果は、そのベースに世界の大状況が横たわっている」とGは言いたいようです。
ぼくは人間の英知と可能性を信じますけど。

その他のことは重要ではありません 
はじめに読んでください - いい音に近づくために 

マルチアンプシステムを構築するためには、プリアンプやパワーアンプ、チャンネルデバイダー、多くの接続ケーブルなど、他の機材の選択も検討しなければなりませんが、これらについては部屋やスピーカーシステムほどの注意を払う必要はないと小庵は考えています。影響が少ないからです。割り切って最低価格のものだけを揃えたとしても、それらのセットアップが正しいなら、またあなたの環境で聴く限り、某有名人の5千万円のシステムにあなたの労作が劣るということはないはずです。

ただし、影響が少ないからといって、アンプそのほかの機材を軽視しているのではありません。それらも注意深く選択しなければならないし、また正しいセットアップになるように努力する必要があります。それについては [何が必要ですか?] 以降のセクションで取り上げます。

 
Gのコメント
マルチアンプシステムの構築は作業ステップが多いし、また多くの機材も使うから具体的な作業や製品選択についてオーディオマニアの意見を聞きたくなるのは理解できるが、まあ、それはほどほどにしておいた方が身のためだ。基礎知識が不足する限り、また科学的なアプローチを軽視する限り、聞けば聞くほど混乱するだろう。みんなが勝手なことを言うからだ。

小庵サイトも疑わしいというなら結構なことだ。そのような態度があれば馬鹿な出費をして家族から非難されることもなくなる。

実際、ひどい情報がある。根拠のない主張を、隅から隅まで主観と感情でしかないものを、しかも頑強に表明している。虚偽に近い悪質なものもある。科学的に無理があると指摘しても、「いやそれでも音が変わる」などと逃げて反省の色もない。結局、「もちろん変わっているのさ、音波ではなく貴君の頭がね」と思って終了する。そんなことを数十年も繰り返していれば、それはsoopoo、どんな文化も衰退するだろうよ。

科学は万能ではないし、時には我々を不幸にすることさえあるが、分かりきっていることは尊重するのが真のオーディオファンだ。

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